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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)7813号 判決 1981年3月05日

原告 古澤英二

右訴訟代理人弁護士 岡田和義

木村五郎

臼田和雄

被告 株式会社大正相互銀行

右代表者代表取締役 佐伯正也

右訴訟代理人弁護士 北村巌

北村春江

古田冷子

村上充昭

主文

一、被告は原告に対し金一億四、二〇八万七、五〇〇円および内金一億三、五〇〇万円に対する昭和五三年一〇月五日から右支払ずみまで年六パーセントの割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は、原告において金五、〇〇〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

(双方の申立)

原告は主文一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求めた。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(原告の主張)

一、被告は銀行業を営む株式会社である。

二、原告は被告に対し、別表記載のとおり、盛山義雄ほかの名義で、期間は一か年、利率は年五・二五パーセントの約定で合計金一億五、〇〇〇万円の定期預金をした。

三、被告は原告に対し本件各定期預金の元利金のうち一〇パーセントについてそれぞれ支払った。

四、よって、原告は被告に対し、本件各定期預金元本の九〇パーセントにあたる金一億三、五〇〇万円とそれに対する一年間の年五・二五パーセントの割合による利息金七〇八万七、五〇〇円との合計金一億四、二〇八万七、五〇〇円および右元本金一億三、五〇〇万円に対する昭和五三年一〇月五日から右支払ずみまで商事法定利率年六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

第一、請求原因事実に対する認否

一、原告主張の一項記載の事実は認める。

二、同二項記載の事実は否認する。

原告主張の日に原告主張の金額の一〇パーセントが被告に預金されたことはあるが、その余の金員が預金されたことはない。

本件のような店頭入金における預金契約の成立時期は出納係が計算確認したときであると解すべきところ、右一〇パーセント以外の金員が出納係で計算確認されたことがないのでその部分についての預金契約は成立していない。

なお、右預金契約の成立があったとしても、別表1ないし4記載の定期預金契約(以下本件1ないし4の定期預金契約という。)の権利者は境辰蔵であり、同表5ないし7記載の定期預金契約(以下本件5ないし7の定期預金契約という。)の権利者は李承魯であって、原告ではない。

三、同三項記載の事実は認める。

第二、抗弁

仮に被告神戸支店長藤下進が原告主張の日時に原告から原告主張の本件定期預金を受け入れたとしても、それは右支店長が自己または第三者の利益をはかるために代理権を濫用したものであって、原告はそのことを知り、また知り得べきであったから、本件定期預金契約について被告はその責任がない。

(証拠関係)<省略>

理由

一、原告主張の一項記載の事実は、当事者間に争いがない。

二、そして、<証拠>によると、以下の事実が認められる。

1. 藤下進は被告の神戸支店長であったが、金融ブローカーをしていた藤村富子に対し導入預金のあっ旋を依頼した。

2. 原告は、右藤村のあっ旋により、被告神戸支店との間で導入預金をすることになり、

イ  先ず、戎産業株式会社の代表取締役である境辰蔵から、借用証(右藤下に対する被疑事件において司法警察員が昭和五三年一〇月一九日境辰蔵から領置したものである。)を差入れて、金七、〇〇〇万円を借受けることにし、利息として年一〇パーセントの割合による金七〇〇万円を天引して現金六、三〇〇万円の交付を受け、これに、右藤下および藤村を通じて受領した裏利息金一、〇〇〇万円と、自己資金をあわせて合計金一億円を、昭和五二年一〇月三日被告神戸支店の応接室において右藤村、境辰蔵ら同席の上右藤下に対し交付して、期間一か年、利率年五・二五パーセントの約定で、本件1ないし4の架空名義を用いた定期預金をしたほか、五木純子もしくは自己の名義で定期預金をし、右藤下から被告所定の各定期預金証書の交付を受け、

ロ  さらに、松本承一から金一億円を借受けることとし、年九パーセントの割合による利息金九〇〇万円を天引して現金九、一〇〇万円の交付を受け、それに、右藤下および藤村を通じて受領した裏利息金一、〇〇〇万円を加えた中から金一億円を、同年同月四日同じく被告神戸支店の応接室において右藤村、松本承一ら同席の上右藤下に対して交付して、期間一か年、利率年五・二五パーセントの約定で、本件5ないし7の自己名義の定期預金をしたほか、同じく自己名義で一口の定期預金をし、右藤下から被告所定の各定期預金証書の交付を受けた。

以上の認定事実によると、原告と被告との間で本件各定期預金契約が成立したものというべきである。

もっとも、前記証拠によると、原告らが藤下進に対する被疑事件の捜査段階などにおいて本件定期預金の預け入れの態様について作為的に虚偽の供述をしていることが認められるけれども、これをもって右認定を覆すことができない。

なお、<証拠>および弁論の全趣旨によると、本件各定期預金契約について、その一〇パーセントにあたる金一、五〇〇万円が被告神戸支店の出納係に入ったが、その余が入っていないようであるが、これをもって右認定を左右することもできない。

この点に関し、被告は、店頭入金における預金契約の成立時期は出納係が計算確認したときであると解すべき旨主張するけれども、当裁判所としては、金融機関を代理して預金を受け入れる権限を有する者が預金とする趣旨で顧客から金員を受領した時点において預金契約が成立するものと解すべきであると考える。もしそのように解釈しないと、金融機関の内部における不正行為などによって預金契約の成立が妨げられるという不安定な立場に顧客が置かれることになり、不当であるからである。

三、次に、被告の抗弁について考察することとする。

本件各定期預金契約は、前記認定のとおりであって、「預金等に係る不当契約の取締に関する法律」の第二条、第三条に違反する疑いが濃厚であるけれども、右の規定に違反する預金契約といえども私法上の効力を否定しなければならないほどの著しい反社会性、反道徳性を帯びるものではないと解すべきであるから、仮に本件各定期預金契約が右の規定に違反するものであり、かつ原告がそれを知り、また知り得べきであったとしても、それだけでは被告指摘のような代理権濫用の問題が生ずる余地がない。もっとも、導入預金は、金融機関の職員の横領、背任などと結び付き易い行為であるけれども、それ自体が横領、背任などを必然的に構成するものでないところ、本件各定期預金契約について、被告神戸支店の支店長藤下進らが右の規定の違反を越えて横領、背任などの行為を犯していたことおよび原告がそれを知り、また知り得べきであったことを認めるべき証拠はない。

従って、被告の右抗弁は理由がない。

四、そして、原告主張の三項記載の事実は、当事者間に争いがない。

そうすると、被告は原告に対し本件各定期預金元本の九〇パーセントにあたる残金一億三、五〇〇万円とそれに対する一年間の年五・二五パーセントの割合による利息金七〇八万七、五〇〇円との合計金一億四、二〇八万七、五〇〇円および右残元金一億三、五〇〇万円に対する昭和五三年一〇月五日から右支払ずみまで商事法定利率年六パーセントの割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

五、よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高山健三)

<以下省略>

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